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911」事件に対する元外務省国際情報局長&前防衛大学校教授のご見解

2009927

宇佐美 保

 

 雑誌『週刊金曜日(2009.9.11号)』の

 

911」事件の発生から、八年を迎えた。だが今に至るまで、事件を捜査したFBIは「真犯人」を特定していない。

一方で「対テロ戦争」と称して事件を口実にブッシュ前政権が始めたアフガニスタン戦争は、オバマ現政権で拡大されている。

この不可解な現実を究明する上で必要なのは、戦争を起こすために米国が仕掛ける謀略工作の理解なのだ。

 

 との前書きに始まる「今こそ問われる米国の「陰謀・謀略」の歴史」との記事で、聞き手の成澤宗男氏(編集委員)に対して孫崎亨氏(元外務省国際情報局長、前防衛大学校教授)が、興味深いご見解を披露されておられました。

 

「陰謀論」
成澤 911」事件については今日も、米国政府の公式発表と違う見解に対し、「陰謀論」なるレッテルを貼る風潮は強いものがあります。しかしご著書の『日米同盟の正体』(講談社)では、明確に「陰謀・謀略」は米国の外交史につきものであり、これを無視しては「911」も理解できないと断言なされていますね。
孫崎 たとえば、一九六四年に起きて北爆の口実となったトンキン湾事件を見てみましょう。当時米国の軍部はベトナム南部で苦戦しており、その原因を北ベトナムからの軍事侵攻であると見なした。彼らは北ベトナムを叩きたかったのですが、世論が賛成しそうもない。そこで「一方的にべトナムから攻撃された」とするウソの「事件」を作らねばならなかった。つまり、彼らにとって「正しい」とされた目的を遂行したくても世論の同意を得られない場合、ニセの情報をばらまいたり、意図的に何らかの事件を起こすというのは、米国の外交政策につきものなのです。
成澤 これ以外にも典型的なのが、「ノース・ウッズ作戦」でしょうね。
孫崎  米国軍部は、隣にキューバのような社会主義国が存在するのは国益に反すると考えた。そこで一九六〇年代に、米国が米軍機を外見上ソ連製の飛行機のように擬装し、あたかもキューバが米国の船舶を攻撃したように見せかける謀略工作を実施し、それを口実にキューバ侵攻作戦を決行しようとして、寸前に中止されたのがこの事件でした。さらには、米西戦争や南北戦争が例としてあげられると思います。



 

 ここでの記述の「南北戦争」に関連して、孫崎氏の著書『日米同盟の正体』(講談社)には、次のように記述されています。

 

二〇〇二年一月二七日、ワシントン・ポスト統一面は、911同時多発テロが生じた日のブッシュ大統領の行動を詳細に報道した。その中で「ブッシュは『本日二一世紀の真珠湾攻撃が発生した』と口述させた(筆者訳)と報じた。では、ブッシュが口述させた「二一世紀の真珠湾攻撃」という言葉が意味するものは何か。

 

私は、このブッシュ大統領(当時)の『本日二一世紀の真珠湾攻撃が発生した』と口述させた意味を疑います。

 

 その際には、まず、真珠湾攻撃の意味を理解する必要がある。じつは真珠湾攻撃は、第二次大戦の英国の状況と深く関連している。当時英国はドイツの攻撃にさらされ、瀕死の状況であった。これを打開するには米国が参戦し、ドイツと戦ってくれる必要がある。しかし、米国国民は第二次大戦に参戦するつもりはなく、中立の立場を貫いていたここで真珠湾攻撃が生じた

 当時、英国首相だったチャーチルは、『第二次世界大戦』(河出書房新社、一九七二年)に真珠湾攻撃の日の感銘を次のように記している。

「一七カ月の孤独の戦いの後、真珠湾攻撃によってわれわれは戦争に勝ったのだ。日本人は微塵に砕かれるであろう。私はかねて米国の南北戦争を研究してきた。米国は『巨大なボイラーのようなもので、火がたかれると、作り出す力に限りがない』。満身これ感激と興奮という状態で私は床につき、救われて感謝に満ちたものだった」

 

 

 英国首相チャーチルは、「真珠湾攻撃」で、
日本への怒りでも、米国民への同情でもなく、
喜びの声を上げていたのです。

 

 

 チャーチルは真珠湾攻撃があったから、英国が救われたと述べている。チャーチルは南北戦争を研究してきたと言っている。たしかに南北戦争の始まりは、見事なくらい、真珠湾攻撃と類似している。この事情は清水博の『世界の歴史17 アメリカ合衆国の発展』(講談社、一九七八年)によると、リンカーンは奴隷州の連邦からの分離は認めないと明言し、同時に「南部が攻撃しないかぎり、戦争は起こらない」という主旨を述べたという。

南部にあるサウスカロライナのチャールストン港入口にあるサムター要塞はまだ星条旗を掲げていた。リンカーンはこれに食糧の補給をすると通報し、補給艦を派遣したが、南部はこれを北部の挑戦と受け止め、要塞を攻撃した。北部では星条旗が砲撃されたとして、「旋風のような愛国心」が巻き起こつた。

 リンカーンは南部が独立する動きを見せている中米国の統一には、戦争が必要と見ている。自ら戦争を開始することはなかったが、南部から先に攻撃させる状況を作り、攻撃を受けた国民の怒りを背景に、望んでいた戦争に突入させた

 

 

 あのリンカーンですら策略を用いて
「攻撃を受けた国民の怒りを背景に、
望んでいた戦争に突入させた」と言うのです。

『週刊金曜日』の孫崎氏のご見解を続けさせて頂きます。

 

 真珠湾攻撃が米国安全保障関係者の間でいかなる評価を得ているか。

 キッシンジャーは『外交』(日本経済新聞出版社、一九九六年)で真珠湾攻撃を、「アメリカの参戦は、偉大で勇気のある指導者の並たいていでない外交努力が達成した大きな成果だった。……孤立主義的な国民を大規模な戦争に導いた」と「評価」している。同書によると、一九四〇年五月まで米国人の六四%は平和の維持はナチスの敗北より重要だと考えていたが、真珠湾攻撃で、ナチスの勝利を妨げることより平和を望むのは三二%になった、という。

 

 

 このように、国民(米国民)を、「国民を大規模な戦争に導いた」の例としては、戦争に反対していた米国民を「湾岸戦争」へと奮い立って参加させた「ナイラの虚言」も存在しました。

この件に関して、先の拙文《筑紫哲也氏と植草一秀氏と大きな力(1》にも引用させて頂きましたが、今回の聞き手でもあられる成澤宗男氏の著作『「911」の謎』(発行:葛燉j日)から一部再掲させて頂きます。

 

 

そして、この本の序章には、次のような記述があります。

 

 だが「911」に関して公式発表と異なる見解を持つことが「陰謀史観」とか「陰謀論者」 といったレッテル貼りを免れないのであれば、米国がベトナム戦争を一挙にエスカレートさせ、北爆まで実施する口実となった19848月の「トンキン湾事件」こそ陰謀ではなかったのか

 また、湾岸戦争前にワシントンで何があったのか。イラクがクウェートに侵攻して二カ月たった一九九〇年一〇月に、米議会下院の公聴会でナイラ」と名乗る戦火のクウェートから逃げてきたという一五歳の少女が涙ながらに「証言」した。内容は「自分がいた病院にイラク兵が乱入し、保育器から生まれたばかりの赤ちゃんを一人ずつ取り出し、床に投げ捨てて殺した」というものだった。

 この証言はブッシュ大統領(当時)によって何度も繰り返してイラク批判に使われ、全米のテレビでも大々的に放映されて一気にイラクへの憎悪が煽られた。そのムードが議会の参戦決議を引き出したことはさまざまな場で指摘されているが、それから1年後、この少女は在米クウェート大使の娘でイラクの侵攻当時病院にいたこともなく、当然イラク兵についての証言はすべてウソであることが判明した。実際は裏で広告会社が演出していたが、こうした行為こそ陰謀と呼ぶべきではないのか。

 

 

 ただし、更に驚いたことは、田岡俊二氏(元朝日新聞の編集委員)は、“ナイラの虚言などは、非難するに当たらない。なにしろ戦争に於いては情報戦も当然なのだから……”とテレビで解説していました。

 しかし、米国の“ナイラの虚言”を是認する田岡氏は、不思議な事に「911事件」に対しては、口をつぐんでおられます。

 

 

 更に、この点に関して、孫崎氏の著作から引用させて頂きます。

 

 現代戦略家の代表リデル・ハートは、『戦略論』(前掲)の冒頭で、『孫子』の「上兵は謀を伐つ」を引用すると共に、戦いにおいて「敵の兵力の拡散」または「敵の注意を無益な目的に逸脱」させるべきであり、「神秘化せよ、誤りへ導け、そして奇襲せよ」が一つのモットーである、と述べている。そして、ハートは、戦略とはその主体が敵を欺瞞する術とまで言い切っている。

 しかし、日本のどこに陰謀・謀を真剣に学んでいる所があるだろう。官庁にない。大学にない。研究機関にもない。ときどき、いかがわしい書籍が出て陰謀論を説き、知識階級はますます陰謀論を馬鹿にして遠ざかる。日本に対して「謀」を仕掛ける国からすれば、日本人が陰謀論、諜を一笑に付して、知識層がそうした戦略に何の考慮も払わないことくらいありがたいことはない

 

 

 このように、孫崎氏が書かれる「日本のありがたさ」に関しては、先の拙文《ペンは剣よりもいわんや金よりも弱し》から一部を再掲させて頂きます。

 

 

 『週刊文春2008.1.24号)』では、藤田氏の疑問をあざ笑うかのように次のような記事を載せています。

 

9.11」陰謀説をブチあげた民主藤田久幸に「あの人ダイジョウブ?」

「おいおい、本気かよ……」

 補拾支援特別措置法が可決された前日の今月十日、参院で開かれた外交防衛委員会での出来事が話題になっている。というのも、民主党の藤田幸久参院議員(57)が、「2001年九月十一日の米同時多発テロは、本当にアル・カイーダの仕業だったのか」と、「陰謀説」を突然語り始めてしまったのだ。

 センセイ、大丈夫?

 

「『陰謀論』は元々米国内で広まったもので、WTCビルには事前に爆薬が仕掛けられていたとか、ペンタゴンに突っ込んだのは民間機ではないなどといった内容です。日本でも『暴かれた911疑惑の真相』などの著書があるベンジャミン・フルフォード氏らが中心となって、『米国政府は大量虐殺の犯罪集団』とまで主張しています。ですが、根拠とされる証拠には綻びがあり、いわゆる『トンデモ話』の一つですよ」(社会部記者)

 藤田議員はどうやら、これに飛びついてしまった様子。実際、委員会でパネルにして見せた写真などは、同様な主張の書籍やネットに掲載されているものそのままだ。

こんな話を国会の場で聞かされた出席者も、たまったものではではないはずです。

・・・

 

 このように、“根拠とされる証拠には綻びがあり、いわゆる『トンデモ話』の一つですよ」(社会部記者)”と、書かれていますが、この社会部の記者はどのような方ですか!?

9・11疑惑」を徹底的に追及された方ですか?

すくなくとも“根拠とされる証拠には綻びがあり”というのならばその証拠を示すべきです。

更に、“実際、委員会でパネルにして見せた写真などは、同様な主張の書籍やネットに掲載されているものそのままだ。”との記述は、それらの写真がいかがわしいとか、それらの書籍、ネットがいかがわしいと看做している事になります。

だとしたら、そのように判断した証拠を提示すべきです。

そして、『週刊文春』は次のように続けます。

 

 「私も最初に話を聞いたときは信じられませんでしたよ。ですが、その後いろいろな資料にあたってみるうちに、これは本当だと確信を持つようになりました。

元独連銀総裁をはじめ、世界中の要人が疑問を呈しているのです。米政府も日本政府も、違うというのであれば、キチンとその証拠を出せばいい。総理や官房長官が嫌な顔をしてたって?そりや、突っ込まれて痛い部分だから、困った顔をするんですよ」

 

 『週刊文春』の方々も、藤田議員を非難するなら、藤田議員が当たったという資料を検証すべきです。

なのに次の記述です。

 

 何を信じるか信じないかは個人の自由だが、国政に携わる政治家となれば話が変わってくる。

 外交評論家の小山貴氏も、「国際関係をあまりに知らな過ぎます。ここまで来ると常識も良識もなく破廉恥」と憤慨する。

 ところが当のご本人は、「通常国会でも引き続きこの問題を取り上げ、世論喚起に努めます」と熱く語る。

 ちなみに藤田議員の座右の銘は、「誰が正しいかではなく、何が正しいか」だとか。民主党には、トンデモ議員を止める奴はいないのか!

 

 此処での “外交評論家の小山貴氏も、「国際関係をあまりに知らな過ぎます。ここまで来ると常識も良識もなく破廉恥」と憤慨する。” との論は、

 

“「9.11」陰謀説が真実か否かが問題ではない、
大事なのは米国が白と言ったら白、黒と言ったら黒と信じ込み行動するのが、
国際関係を築く為の常識であり、良識であ
る!”

 

と論じている事と同じです。

 

即ち、外交評論家の小山貴氏も『週刊文春』も

 

「本当だろうが嘘だろうが世界の警察官たる米国が正しく、
「9.11」陰謀説が正しいかどうかは大事ではないのだ!」

 

と言っているようなものですから、これでは

 

「何が正しいかは問題ではなく、誰が正しいかが問題なのだ!」

 

となり、『週刊文春』が茶化している藤田議員の座右の銘である「誰が正しいかではなく、何が正しいか」と全く逆なのです。

 

 

小山貴氏も『週刊文春』も、
米国の謀略によって被害を受ける側の国への配慮が全くありません

アフガニスタン国民、イラク国民の惨状には、
日本も無関係と言えるのでしょうか!?

更には、次のキッシンジャー氏の言に有る
「真珠湾奇襲」に追い込まれた日本は幸せだったのでしょうか?!

そして、その戦争の犠牲になった方々も幸せだったと言われるのでしょうか!?

 それよりも、
”日本は米国の属国となるのが一番!とでも思っておられるのでしょうか?


外交努力で参戦
孫崎

 キッシンジャーは、「並たいていでない外交努力」で米国が参戦できたと書いている。

並たいていでない外交努力で戦争を避けたのではない。外交努力で参戦できたという表現を使用している。米国が日本につきつけた満州を含む中国全土からの撤退という要求は日本がのめないものと見なしている。

成澤 こういう歴史的事実を知ることが、「911」の解明に不可欠だと。
孫崎  トンキン湾事件は当時国防長官だったマクナマラが一九九五年に出版した回顧録でベトナムが攻撃した事実はなかったと認めることで最終的に決着がついたように、「陰謀・謀略」とは解明されるまできわめて時間がかかる。当事者は「やった」とは絶対認めませんし、まず証拠も残さない。しかし、それでも充分に確信のできる情報だけを使い、過去の歴史を検証することで「ある程度の確率の高さでここまでは言えるのではないか」というのが、外務省時代にやっていた情報分析の仕事でした
成澤 「確率の高さ」とは、一〇〇%ではなくともいいのですか。
孫崎  何かの事件が起きた場、曖昧で一〇〇%の確証もないから何も判断できないというのは学者の世界であって、世界情勢を見極める諜報の仕事はそうはいきません。



最初からデマの連携
成澤 では「911」の場合、どのような分析が可能なのでしょう。
孫崎 最初におかしいと思ったのはブッシュ前政権は事件直後の何も分からないうちから「犯人のテロリストとイラクは関係している」と言い出した点です。しかし、私は一九八六年から八九年にかけて在イラク大使館次席でしたから、この国の事情はよく知っている。旧フセイン政権が「テロリスト」とされたアルカイダとつながっているなどという事実が一〇〇%存在しないというのは、常識の部類でした。フセインは、自分に完全な忠誠を誓う者しか信じない男です。当時自分を狙うかもしれないアルカイダに、協力する訳がない

 

 

 何故、このような明確な情報が、日本国のトップ(首相)に上がって行かないのでしょうか?

或いは、しっかりと上がっていっても、無視されているのでしょうか?

 

 そこで、又、孫崎氏の著作から引用させて頂きます。

 

 

 かつて、日米交渉の最先端にいた官僚が次のように述懐した。「われわれが、ある案件で米国と戦っている、今回は自分たちの方に分がある、少なくとも互角だと思っている。

すると突然官邸から『君、頑張るのはもう終わりにしてくれ』と後ろから矢が飛んでくる」。多くの政治家は米国の支持なくして総理になれない、政権は続かないと思っている

 

「米国新世紀プロジェクト」(PNAC
成澤 最初から変でしたね。では、確かな情報とは何を指すのですか。
孫崎

 当時イラクへの侵攻を進めていたチェイニー副大統領ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官、ファイス国防次官、パール国防政策諮問委員会委員長、リピー副大統領首席補佐官など大半が、共和党が野党時代の一九九七年に結成された「米国新世紀プロジェクト」(PNAC)というシンクタンクのメンバーでした。彼らはクリントン政権時代の一九九八年に、大統領に「フセインを権力から追放せよ」という公開書簡を提出しているのです。

911」の三年も前に

……


 

 

 ここまで引用させて頂きましたが、あまり長くなりますので、次の拙文《日米同盟の正体を知らなかった日本人》に続けさせて頂きたいと存じます。

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